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インドネシア通信『話の裏』…の巻  神谷典明

 

どんな話にも必ず知られていない裏が有ります。

 

小職が現在読んでいる本、原田伊織著『明治維新という過ち』もそのような題材を

 

扱った本です。『明治維新は無かった』という驚きの裏話が綴られています。

 

『明治維新は長州と薩摩の歴史捻じ曲げなのだ』という説です。

 

家康公がお生まれになられた岡崎城下(外堀の内)で生まれ育った小職にとって

 

実に胸がすく話です。

 

 

この様な裏話はどんな話題にも付いて回ります。

 

 

インドネシアがようやく首都移転を決めました。

 

 

長らく懸案事項とされてましたが、ようやくジョコウィ大統領が決断した様です。

 

場所は東カリマンタン。

 

小職が6年間の青春時代を過ごしたタラカン島からも近いです。

 

石油基地バリックパパンから州都サマリンダへ向かう道が通っている地域に

 

『スハルトの丘bukit Soeharto』と呼ばれる広大な土地が在ります。

 

ネットニュースを見ますと、どうもここのようです。

 

 

この道は小職がタラカンに駐在を開始した40年以上前から在りました。

 

小職は所属する天龍木材からの命令で毎月東カリマンタンからの原木輸出量を

 

各船会社の事務所で調べ本社へ送っておりました。

 

ベラウとタラカン、サマリンダとサンクリランよりの積出し原木量が分かれば

 

日本の先物原木相場がある程度読めます。

 

上司はこれを基に原木買い付け量を調整しておりました。

 

これが多ければ相場は下がりますし、少なければ上がるからです。

 

その為、タラカンからバリックパパンまでプロペラ機に乗り、バリックパパンから

 

サマリンダへは車で走って毎月1回の割合で調べていたのです。

 

 

バリックパパン空港でチャーターした車が実に怖いのです。

 

でサマリンダの対岸まで突っ走るのですが、溝の消えたタイヤを履いているからです。

 

バリックパパン空港にたむろしている白タクは多かれ少なかれこんなもんでした。

 

最初は森林の中を左右にうねって走る道も進むにつれて坂を上り下りする様に

 

なって来ます。坂を上る時は対向車が見えません。

 

それなのに坂を上っている最中でも追い越しを掛けるのです。

 

突然対向車が現れます。ギリギリでかわしながら走り抜けるのです。

 

いくら運転手に文句を言っても『荒い運転がうまさの証拠』とばかり聞いてくれません。

 

助手席に座って前を見てはおれませんので、後席で目をつぶって怖さに耐えるのです。

 

雨が降ればもっと大変です。何せタイヤの溝が消えてます。曲がる度にキー!!!

 

タイヤを軋ませながら走るのです。溝が無いので良く鳴ります。眠ってはおれません。

 

同乗の客が感嘆します。

 

『こんな運転で良く事故を起こさないな!』

 

起こさない訳が有りません。頻繁に事故を起こします。当事者になってないだけです。

 

ある時タラカンの華人が言いました。

 

『サマリンダからバリックパパンへ戻る時、前を走っていた車が崖にぶつかった。

 

中には日本人らしき客が居たが気を失っていたので、引きずり出して自分の車に

 

乗せ換えバリックパパンで病院へ放り込んでおいたよ』

 

それは小職の友人、有名商社CI社のタラカン駐在員M氏でした。

 

『気が付いたら病院に居た』と言ってたそうですので、彼の同僚に助けた華人の名前を

 

伝えました。同じタラカン島ですので早速御礼に伺ったそうです。

 

 

事ほど左様に事故多発の道路ですが、これしかサマリンダへ行く道は有りませんので、

 

みんな嫌々ながらキ●ガイ白タクに乗って疾走していたのです。

 

そしてこの道の両側が『スハルトの丘』なのです。

 

 

1982年だったと記憶しておりますが、異常乾季が起こりました。

 

全く雨が降らず、州政府は飛行機を飛ばして降雨剤を雲の中に撒きました。

 

民衆は一生懸命Dukun(呪術師)に雨乞いのお祈りをして貰いました。

 

自然発生的に雷から起こる山火事や、野焼きが消えずに燃え広がる森林火災が頻発しました。

 

小職の住んで居るタラカン島の街も裏山が燃えました。

 

タラカンは井戸のある家が少なく、屋根を伝う雨水をドラム缶に溜めて生活用水としていたので

 

水が切れ、CI社の宿舎までトイレを借りに行きました。(水が切れるとトイレも出来ません)

 

この異常乾季の影響は山にも出て、原木に虫が入る様になりました。

 

虫の無い優良材産地と言われる林区から切り出した丸太にも虫が出ます。

 

値段の高い白メランティなぞは、建具材が芯材となり、値段は1/3以下となりました。

 

 

スハルトの丘も燃えました。

 

この一帯は地下の浅い部位に泥炭層があるので火が付きました。

 

水を掛けて消火しても地下では泥炭が燻ぶってます。地表が乾くとまた火が出ます。

 

こんな事の繰り返しが何カ月も続きました。

 

結果、ジャングルは燃え尽きて、草しか生えないサバンナと化してしまいました。

 

故に『スハルトの丘』は森林ではありません。

 

そしてここへ首都機能を移転するとインドネシア政府は発表したのです。

 

 

評論家がものを申します。

 

『広大な森林を切り開いて首都を創るのは結構だが、地球温暖化に寄与しないでね』

 

笑っちゃいますね。この評論家は一度でも現場を見たのでしょうか?

 

東カリマンタンという言葉だけで鬱蒼とした未開の地を想像したのでしょう。

 

しかし実態はサバンナです。切り拓かなくても使えます。

 

インドネシア政府は地球温暖化を招かない様にここを選んだのではないでしょうか?

 

初期投資も安く済みますしね。

 

カリマンタン=未開=森林というのが一般的な想像です。

 

しかしスハルトの丘に限っては森林が有りません。40年も前に燃えてしまったのです。

 

こんな事は東カリマンタンの住民なら誰でも知ってます。

 

これが移転候補地にまつわる『話の裏』です。