インドネシア通信『真実は一つ』…の巻   神谷典明

皆さんはまだパーム農園がエコだと思っておみえですか?
思ってみえるのでしたら小職が自分の目で見ました以下事実をお伝えします。

パーム農園が出来ている場所は元々密林でした。
密林とは色んな樹が混在して密生し色んな生物が生きている場所です。
その密林を一体どうしたのか?

①密林を農園に転換させる許可を県知事より得ます。
 そしてそこに生えている木を伐採し売っても良いという許可
 転換伐採枠(IPK)を取り付けます。

②生えている木の中で高く売れる木を伐採して売ります。

③残った売れない木、もしくは伐出コストに見合わない木に火をつけて
 焼き払います。
  【煙が出ます。これがシンガポール国民を悩ます煙霧の原因です。】
 ここで嘘の宣伝が入ります。
   『森を燃やして生きる人が居る』
 まるで焼き畑が森林火災と煙霧の原因の如き物言いです。
 でも、焼き畑を営む人達はいつどの程度の火を点ければどこまで燃えるか
 経験則で知ってます。
 彼等が現在の森林火災と煙霧を引き起こしている訳ではありません。
 規則が出来ました。2ha以上の大規模焼き畑は禁止
          2ha未満の農民が行う焼き畑のみ許可
 規制が出た事は、それ以前の焼き畑が企業の手による焼き畑であることを
 国が正式に認めたものとも受け止められましょう。
    
④焼き払って灰の溜った土地にパーム椰子の苗を植えます。

➄植えてから4~5年後に実が成り始め、これを蒸して油を取ります。
 油は食用、石鹸・洗剤、界面活性剤、バイオ燃料として利用されます。
 ここでまたしても嘘の宣伝が入ります。
   『石油に頼らないエコな洗剤です』
 パーム油が植物由来なのでエコであることを主張しておりますが
 農園を開く際にどれだけ環境を破壊したかを言っていないからです。
   
⑥20年も採り続けますと幹が高くなり実が採り難く収量も落ちて来ます。
 ここで植え替えをします。問題は伐倒した幹です。
 これに火をかけて燃やしますと煙が出て煙霧と騒がれます。
 そこで8m~12mにも成長した幹に土を掛けて腐らせます。
 【腐る過程で25年間かけて幹内に貯め込んで来た二酸化炭素を
  一挙に吐き出してしまいます。】

⑦幹を埋めた間に新しい苗を植えます。植栽2巡目です。
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インドネシアは現在⑦の段階に差し掛かりつつあります。
元々パームはスマトラの西の端メダン地区から植栽され始め
パーム事業の発展に伴い東へ東へと移動して来ました。
メダンからぺカンバルへ、パレンバンへ、ジャンビヘ、ランポンへ、
そして海を渡ってジャワ島やカリマンタン島、セレベス島へと
広がって来ました。
2巡目を迎えていますのは主にスマトラとジャワの一部です。

1巡目は動植物が消えました。
 密林だった場所がパームの単一栽培(プランテーション)に変わり、
 他の植物が生えて来ません。
 椰子は竹の一種だそうです。その為に成長力が他の植物より強いのでしょうか、
 パーム椰子とパーム椰子の間には草しか生えて来ません。
 当然動物も食料が無くなった為に消えて行きました。
 シーンと静まり返った農園内に生きているのは蛇と蛙だそうです。
 見事なプランテーション(単一栽培)です。
 生物多様性なぞ見る影もありません。

2巡目には大量の化学肥料を使います。
 パーム椰子の根元に中国製化学肥料の袋が捨てられております。
 植えた幹が腐る際に土を酸性土壌に替えたのでしょうか?

今はここまでです。これからの展開は判りません。
果たして20年後の3巡目は一体どうなるのでしょうか?
化学肥料を使ってもパーム椰子が育たなくなり、草だけのサバンナが
インドネシア全土に現出するのでしょうか?

・今から44年前の大学3年時、マレー半島を汽車と車を乗り継いで
 縦断する旅をしました。沿線はどこまでも続く見事なゴム農園でした。
・10年ほど前に車でシンガポールからクアラルンプールまで走る機会が
 ありました。あれほど続いていたゴム農園は影も形も無くなり、
 全てがパーム農園に変わっておりました。
・20年後旅行をすれば、一体どの様な光景を目の当たりにしましょうか?
 延々と続く宅地でしょうか? それとも延々と続く荒れ地でしょうか?

ゴム農園は農民が主体ですが、パーム農園はその殆どが企業経営です。
企業の欲望は凄いです。
農園事業者はパーム農園の成り立ちから行く末まで知っています。
自分の行為がどれだけ自然を破壊し生物多様性を奪っているか、
そして人類に負の遺産を残しているのかを。
でも止めません。
儲かるからです。
儲けの前には思考が停止するのでしょうか。分かっていながらやるのです。
確信犯です。
事業とは、生きとし生けるもの全ての共有財産である自然を、自己利益の為に
破壊して恥じない程の大義名分が立つ行為なのでしょうか? 
『今が儲かればよい』まるで巨大な損失補償をしてでも目先の利益を上げ、
あげくこれを飛ばし、当然の如く潰れた巨大企業、山一証券を見るが如しです。
分かっていながら対処しない経営者、自分の代さへ良ければあとは野となれ山となれ、
冗談ではなく、パーム農園には『本当に野と化す可能性』が有るのです。
それでも利益の為にやるのでしょうか?

事業とは恐ろしいものです。
『人を殺してでも儲けたい兵器産業』『自然を破壊しても儲けたいパーム農園』
善良な人間がひとたび企業の面を付けると、どうしてこんな恥知らずに
なれるのでしょうか!
事業とは人の心を恥じという頸木から解き放す麻薬なのでしょうか?
事業という大義名分があれば人はいくらでも破廉恥漢になれるのでしょうか?
人間を豊かにする為の事業が、他人を傷つけても自分が儲かれば良い、という
エゴを生み出す隠れ蓑になることは、実に哀しいことです。
事業にも倫理が必要です。何をやっても良い訳ではありません。
倫理基準から外れた事業は自然を傷つけます。人を傷つけます。
事業というのは本来人を幸せにする為に行う行為であるべきです。
『青二才めが、事業の何たるかを分りもせずしてほざくな!』
お叱りの声が聞こえてきそうですが、小職はそう思います。
小さいと言えども25年間に亘ってコンサルタント事業をして参りました。
社会の役に立つ事業をインドネシアの地に起こし育てる仕事です。
小職の夢の尺度は『一体何人の人生に自分が係われるか?』でした。
現在4つの事業にコンサルタントとして係わっております。
そこで働く人の合計は約3650人。
従業員1人に3人の家族がいるとして14600人の人生に係わらせて
戴いており、小さくとも意義ある仕事だと自己満足しております。

どんな企業でも社会的に必要性があるから生きておれるのです。
規模の大小ではありません。必要性が消えれば淘汰されます。
企業が生きているのは担っている事業が有する社会的必要性の『証』なのだと
思っております。
どんなに大きな企業でもその事業が有する社会的必要性が消えれば淘汰されます。
どんなに小さな企業でもその事業が有する社会的必要性が有る限り生かされます。
小職はそう考えて今まで事業を担って参りました。
社会的必要性を維持するには倫理が必要です。
社会に害を起こさず社会に役に立つ事業とそれを担う企業だけが長寿を保てるのだと
信じたいですし、そうあるべきだと思っております。
この一点に於いて弊社の25年間にはそれなりの重みが有ると自負しております。

今年最後の出張でスマトラ島スラットパンジャン地区に在るサゴ椰子農園へ
生育調査に入りました。
サゴ椰子は幹に多くの澱粉を貯める事から『人類の弁当箱』と言われております。
しかし、植栽するためにはパーム農園と同様に密林を切り開かねばなりません。
事業として植えられたサゴ椰子林を見ながら、事業の有する光と影に想いを馳せる
ことが出来ました。
せめて植えたサゴ椰子からしっかり澱粉を採り、多くの人々の食を満たすべく努めます。

 『2019年おめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。』