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インドネシア通信 『雨季のクリスマス』…の巻

 

今年も残すところあと1日です。

クリスマスの喧騒も終わり、いよいよお正月です。

日本は好いですね…、

四季が自然に人間の活動を区切ってくれますので。

ボーとしているインドネシアでも、流石にツリーは撤去された

ことでしょう。

 

インドネシアでのクリスマス・プレゼントは、雨です。洪水です。

毎年雨季の真っ只中がクリスマスとなりますので。

正月休みにバリ島観光は馴染まないです。

4泊5日間全て雨に降り込められる可能性も有りますから。

バリ観光のベストシーズンは日本の夏です。避暑にお越し下さい。

 

今年の雨季はキツイです。

インドネシア全土で雨が続き、大潮と重なる時期は洪水が多発します。

海面が大潮で上昇しますと河の水が海へ流れ出難くなり、上流から

流れ来る大雨増水と相まって河の中流地区で溢れ出すのです。

この時期は月齢図付きカレンダーを見ながら注意を怠りません。

 

綺麗な満月を見ても心は楽しみません。洪水を思って不安になります。

一旦洪水になり工場が浸水すれば生産はストップ、採算は滅茶苦茶。

その後2年間位は採算建て直しで塗炭の苦しみを味わう事になるのです。

 

小職もジャンビで塗炭の苦悩を味わいました。

忘れもしません。2003年12月13日夜、工場に河の水が入って来たのです。

翌14日には道路が冠水、車が通れず船に乗り換えて工場へ通いました。

工場内をカヌーで見廻りました。

製品は一部水没、機材も全てが水没しておりました。

水が退いてから行ったモーターへの通電はスリル満点,ショートか…、回るか…

そして、失った信用と採算を回復させるのは、もっともっと大変でした。

 

10年後の今年、満月の12月17日、大潮による増水に肝を冷やしました。

インドネシアのクリスマス・プレゼントは、とても厳しいものなのです。

 

 

インドネシアの正月はあっけないものです。

クリスマスカードは交わしますが年賀状なるものは有りません。

お歳暮もお年玉もありません。

おせち料理のごとき特別な料理もありません。

午前0時を期して教会の鐘が鳴ります。

1月1日が休みです。ただそれだけ…、なのです。

 

その昔、1月1日に取引先社長宅へお年始に行った事がありました。

『何か用か?』、と聞かれてしまいました。

1月1日を電話局の待合室で迎えたことがありました。

夜、原木の船積が終わり、海から上がって来て意気揚々と日本で待つ

上司に報告をしようと電話局へ向かったのです。

当時は国際電話をわざわざ電話局へ出向いて掛けていたのでした。

待っている間に午前0時の鐘が鳴り出しました。

電話局での年越しです。

 

短波ラジオで紅白歌合戦を聞いていた年も有りました。

バーで飲んだくれていて、気が付いたら年が明けていた事も有りました。

それ位、1月1日の正月はインドネシアの地に定着しておりません。

 

勿論インドネシアでも正月は来ます。

イスラム教徒の正月は、『レバラン』といわれる断食明けのイスラム正月です。

キリスト教徒の正月は、『クリスマス』です。

華人にとっての正月は、『イムレック』と云われる春節、来年は1月31日です。

バラバラです。

インターナショナル正月と彼等が呼ぶ1月1日は、その日が旗日になっている

だけで、日本のように全国民一体となって祝う習慣は有りません。

大晦日の夜、打ち上げ花火を揚げるのが最近のブームになっている程度です。

フラフラット上がり、情けない音で鳴る打ち上げ花火が唯一正月の証です。

 

31日。

ホテルの窓越しに眺める情けない花火で日本の正月を独りで偲ぶ夜は

遠い思い出となりました。

独立して20年、盆暮れは人並みに日本で迎えられる様になって来ました。

今年も孫と一緒に大晦日と正月が迎えられます。 有り難い事です。

 

サラリーマン駐在員時代は正月帰国を会社が認めてくれませんでした。

独立した後は帰国航空券を買うお金が勿体無く、帰国しませんでした。

時間が経ち経済的余裕が出来ても、仕事トラブルや、洪水等の天災、

リーマンショック等の人災に見舞われ、思う様に帰国出来ませんでした。

その間に子供は成人し、幼な子の成長を眺める、という親として当たり前の

楽しみを永遠に失ってしまいました。

 

それに引き換えインドネシア人は、仕事を後回しにしても目の前の幸せを

オンタイムで味わいます。 

幸せに『後で』(Nanti)はないのです。

 

独立後20年を経てようやく仕事も落ち着き、帰国をしている間も仕事を

遂行してくれる頼もしきパートナーに恵まれ、こうして人並みに日本での

お正月を迎えられる様になりました。

かつての自分を顧みれば、お正月を家族で迎える事は、『有り得難き事』。

 

『人並みで過ごせる幸せ…』

 

名大教養学部の名物教授、梅津先生も教えてくれました。

 

 『本当の喜びとは、その喜びがどれだけ多くのものによって味わい得るか、

  味わい得るもの(人間だけでなく生きとし生けるものすべて)の数に比例して、

  真の喜びに近ずく。』

 

『ごく一部の人しか味わえないことを幸せだと信じて、

    ほとんど幸せを味わえずに死ぬか、

 より多くの人々が味わい得るものを幸せだと信じて、

    多くの事柄に幸せを感じて生きるか、

 ここが生き方の分れ目である』

 

お正月を家族揃って迎えられる…『人並みの、幸せ噛み締め大晦日』。

来年は若い友人が2月に結婚します。

披露宴の席で、インドネシアの人々から教えられた幸せの味わい方を

是非伝授してあげたいです。

 

   『小さな幸せを沢山集めましょう。

       大きな幸せがそう沢山あるとは思えません。

    沢山の小さな幸せを身辺に拾って御覧なさい。

       大きな幸せになりますよ…』