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インドネシア通信 『民主主義フェスティバル・大統領選挙』…の巻き

                              神谷 典明 


彦星も織姫も下界がうるさくて今年の逢瀬は楽しくないでしょうね…。
日本では都議会議員選挙が始まり政権交代の可否を占うのだと姦しく騒いでます。
インドネシアでも5年に一度の正副大統領直接選挙が始まっており何でもアリアリの
似非民主主義フェスティバルの様相を呈して来ております。


 1番ペア…メガワティ元大統領とプラボヲ氏のセット
 2番ペア…ユドヨノ現大統領とブディオノ氏のセット
 3番ペア…カラ現副大統領とウイラント氏のセット

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面白いポイントは
①ユドヨノ現大統領とカラ現副大統領が敵同士に別れて戦っていることです。
  でも、現職であることも事実なので公式の席には現正副大統領として
  敵同士が、一緒に座っている姿をTVで見られることです。 
②メガワティ女史とプラボヲ氏は親同士が敵であるのにもかかわらず
  タッグを組んでいるこです。
  ご存知の如くメガワティ女史は建国の父と称された
  故スカルノ初代大統領の長女であり、
  プラボヲ氏は開発の父と称されたスハルト第2代元大統領の娘婿なのです。
  ご存じないかも知れませんが、
  禅譲といわれたスカルノ氏からスハルト氏への政権移譲は、禅譲などではなく
  スハルト氏がスカルノ氏から強引に奪い取ったクーデターであり、
  その後、30万人とも50万人とも言われるインドネシア人民が
  クーデター隠しの手段として虐殺されているのです。
  スカルノ氏はスハルト氏に殺されたといっても過言ではないほどの仕打ちを受け
  スハルト治世下の32年間は闇に葬り去られていたのです。


  『微笑みの大統領』、と称されたスハルト氏の裏の顔をお知りになりたいならば
  鹿砦社出版、 今木健之著 『インドネシア繚乱』、をご一読下さいませ。

  このような実父と義父の関係が有りながら何ゆえこの二人は手を組んだのでしょうか?
  その理由は政治だからです。敵の敵は味方だからです。

  現大統領のユドヨノ氏は
  メガワティ女史が大統領時代に国軍から拾われて大臣となれた人です。
  そのユドヨノ氏が5年前の大統領直接選挙で
  当時のメガワティ大統領に刃向って大統領に立候補し勝ったのです。
  メガワティ女史から見ればまさに飼い犬に手をかまれた心境でしょう。
  インドネシアではこのような心境を 『Kacang tidak tahu kulit』 と申します。
  kacangは豆(落花生)、tidak tahuは知らない、kulitは皮(殻)です。
  
  『豆は皮を知らない』…、
  つまり、落花生は実が大きくなる間、殻に守られて育ったのにも拘らず
  大きくなると殻は捨てられ、豆のみが尊重されることから、
  『恩知らず』、を表す言葉となるのです。
  ちなみに小職はこの言葉を実に長い間探して参りました。
  この言葉が見つかった時には思わず、ヤッタ!と喝采したほどです。
  それほどインドネシアではこの言葉を吐き掛けたい人が多かったのです。
   
  話がそれました。元に戻します。
  
  メガワティ女史から見ればユドヨノ現大統領は拾ってやったのに
  手を噛んで逃げた飼い犬なのです。
  故にユドヨノ氏に敵対するプラボヲ氏が個人的経緯はともあれ
  政治的にはメガワティ女史の味方になれるのです。(政治は恐ろしい…)

③カラ副大統領が大統領選に立候補しユドヨノ氏の敵となりました。
  今でも副大統領としてユドヨノ大統領に忠誠を尽くすべきカラ副大統領が
  選挙キャンペーンの際は敵になるのです。
  国外的には忠実な副大統領、国内的には政敵として、
  カラ副大統領は氏はユドヨノ大統領に接しているのです。
  討論会で激しく議論を戦わせるときの正副大統領の心境や如何に!?


  ・ユドヨノ大統領から見れば副大統領にしてやったのに対抗しやがって、恩知らずめ!
  ・カラ副大統領から見れば金銭的に面倒を見てやって大統領してやったのに
   その恩を忘れ、腹心ブディオノという男を副大統領にすえやがって、この恩知らず!

  これも Kacang tidak tahu kulit です。 

④今回の3ペアの正副大統領候補者6人の中で文民は1番のメガワティ大統領候補と
  3番のカラ現副大統領、そして2番のブディオノ副大統領候補の3人です。
  カラ氏はセレベス島で有名ボソワグループを率いる実業家、
  ブディオノ氏は日本の日銀に相当するインドネシア中央銀行総裁です。

  3番のウイラント副大統領候補は元国軍最高司令官、
  1番のプラボヲ副大統領候補は元国軍特殊部隊司令官、
  2番のユドヨノ現大統領もウイラント氏やプラボヲ氏ほど有名ではなかったものの
   国軍の将官上がりです。実に各々ペアの半数が国軍上がりなのです。

  インドネシアが民主国家を装ってもその実態はまだまだ軍政です。
  いつでも国軍の手で政体をひっくり返す事が出来ますので
  国軍を引き入れなければ政権が成り立たないのです。  
  警察は暴徒に相対して空砲を撃ちますが、
  国軍は命令一声実弾水平打ちを何の躊躇もなく行います。
  軍はそのような訓練を受けているのです。


閑話休題
選挙運動とはTV討論と街頭キャンペーンです。
特に街頭キャンペーンは凄いです。街が動員された人達で埋まります。
昔、キャンペーン中の対立陣営同士が喧嘩になり暴動に発展したことがありましたので
それに懲りて今ではキャンペーン実施日を立候補陣営ごとに日を分けて行っております。
キャンペーンに先立ちバスやトラックを使って近郊から動員者を街へ運びます。
動員されるのは普通の民衆です。
動員は金と物でなされます。
日給5万ルピア、昼食とTシャツ帽子のお土産付き…悪くはない条件です。
・一日街頭で物を売っても5万ルピアは稼げません。
・畑を耕しても現金は入ってきません。


このような人達が3回キャンペーンに参加すれば3日で15万ルピア、
夫婦で参加すれば30万!
(子供が居れば???)、実に悪くはないです。 実に実入りが良いです!。
アホらしくて物売りなんぞしてはおられません。畑仕事なんぞしてはおられません。
結局、大勢の人たちがキャンペーンに動員される事となります。



参加者にどこで金を渡すって?、それは送迎するバスの中です。
投票動機はどうして決まるのでしょうか?
この問い合わせを受けた運転手君の答えは明快でした。
『村長、区長が選挙陣営からお金を貰い一番多かった陣営へ投票するよう村人に促すんだ』

政治信条なんて関係ないです。政策なんてどうでもいいのです。
投票権がお金に替わるなんて、素晴らしい!!!
選挙が似非民主主義フェスディバルと呼ばれる所以です。


私たち日本人はこの公然買収選挙を笑えますか?

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